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時間封鎖〈2分冊〉 (創元SF文庫)
JUGEMテーマ:読書

 ある夜、地球は封鎖された。
 未知の力によるシールドに閉じこめられ、外界から隔離されたのだ。太陽は毎日昇るけれど、あきらかに封鎖以前とは異なる姿をしている。そしてその外では、たいへんな勢いで時間が流れていた。

 SFでなくては有り得ない世界、有り得ない展開なのだが、そこではポール・オースターばりの、緻密なドラマが展開されている。驚天動地なアイディアなくしては、このオーソドックスな物語展開が可能にならなかったあたりがまた心憎い。
 高度な設定に必要最低限の人物と物語を盛ってSF小説として売られている例は結構出くわすのだが、それ以上の何かを盛れないってわけじゃないのだと、しみじみ思った。

 オースター調の物語展開は主流文学寄りで、これで評価されたというのはなるほど頷けるデキなのだが。主流文学寄りってことはつまり、旧態依然たる社会というか人間の精神構造から離れられなかった、ということでもある。

 世界の中心に父と息子がいて、息子は父に逆らい、ブレイクスルーを導くことで、父の築いた世界を壊す。
 そして女性は主筋から排除されている。産み、育て、看取る存在としては受け入れられるが、女性が自分の意志で動けばすなわち、父と子に対して罪をなす。
 こういうオイディプス話の展開は先が見えるし、疎外される側の性に生まれてしまった者としては、正直、またかと苦笑しつつ読み進む以外ないのだ。

 まあ、この話は、科学的に高度な架空の構造を構築したSFの弱点、つまり、高度な科学知識と識見を持つ人物――多くは科学者――でなければ事態を収拾する主人公になれない、物語を導くファクターとしては読者から離れすぎてしまう部分を、主人公役でなく脇役に視点をおくことで回避している。
 視点のおかれた人物は父の息子ではなく、主筋からは疎外されている存在であるせいか、なんとか読み通せたのだった。

 しかしこの作品の疎外は、古来連綿と受け継がれてきた男社会の、女性排除というか憎悪、つまりミソジニーのあらわれという以上の広範囲に及んでいる。

(略)スピンの実態が公表され八年を経た時点においてさえ、スピンが「自分自身および家族に対する直接的な脅威」と認識している一般市民は、ヨーロッパと北アメリカにしかいなかった。アジアとアフリカ、そして中東のほとんどの国の人びとは、これはアメリカの陰謀である、あるいは、昔のスターウォーズ計画を蒸し返したあげくの重大事故に違いないと思いこんでいた。

 なぜそう思いこめるのか、一度ジェイスンに訊いたことがある。

「かれらに、なにを理解させる必要があるのか考えてみればいい。世界にはニュートン以降の天文学の知識を全然もっていない人がおおぜいいる。自分と家族を養うために、動植物性廃棄物(バイオマス)を拾い集めることが生活のすべてだとしたら、月や星について本気で考える必要性なんか感じるか?(略)」

『時間封鎖〈上〉』96ページ


 アジア人としては大いにひっかかるところだが、まあ小説だし、実状として否定もできないなあと思うしで、さておくとして(笑。
 長すぎるので引用できなかったが、この後段で、SFの読者は科学的な外挿を重ねて大きな構造を理解する思考実験に慣れているので特別、みたいな言及はあるので、気にならないのかもしれない、というのはあるのかもしれないが。ある実験――世界全体のブレイクスルーを導く試みを可能にするための壮大な仮構として、この長大な物語が書かれたのであれば、このとんでもない切り捨ても枝葉末節というか、必要の前にはしかたないこと、なのかもしれぬ。

 しかしSFはずいぶんいろいろなものから、わたしたちを自由にしてくれたんだなあ、と、思う本でもありました。

 以下は蛇足なうえ、ややネタバレかと思うので畳んでおく。

評価:
ロバート・チャールズ ウィルスン
東京創元社
¥ 987
(2008-10)

評価:
ロバート・チャールズ ウィルスン
東京創元社
¥ 987
(2008-10)
 その実験の打ち上げに際し、保守的で秘密主義なアメリカ大統領が、ブレイクスルーに否定的なスピーチで引用する十九世紀ロシアの詩人の詩が、実に暗示的である。

外界は幻のごとく消え去り
故郷を失った孤独な男は
なすすべもなく、無一物のまま
広大無辺な宇宙の闇と向きあわねばならない
命の歓びはどれもみな遠い過去の幻
そして、怪異な夜がその本性をむき出しにする
いま男は気づいた
自らの定めが不吉ななにかを導いたことに

『時間封鎖〈下〉』157ページ

 スピンは自然に生成されたものでなく、作った存在のある装置なのだが、その存在は明らかにされず、はかりしれない存在のまま、物語は終わる。観測し実証 しえない存在を科学は認識できないのだが。人智を超越したなにかが存在する、という事実は存在する。科学的であることで、その事実認識と直面できるように なるのか、という疑問には、真の主人公であるジェイスンには可能だ、という回答は出ているように思うが。ジェイスンでない人には無理、ということなんだろ うなあ。人間を特別扱いしてくれる神様がいる、と信じる人は現実にも、作品中にもたくさんいるわけだし。
| 折原偲 | SF | comments(0) | trackbacks(0) |
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